【物語】わがままな赤い花

遥か遠くまで広がる広大な大地に、
三本の花が咲いていました。
三本の花はそれぞれ異なった色で、
各々が個性を出し合いながら生活していました。
ある日のこと、いつものように
赤い花が水分補給を行っていたところ、
青い花が言いました。
「赤い花君、君はちょっと水分を
とり過ぎなんじゃないかい?」
赤い花が言いました。
「だって、喉かわくんだもん。」
青い花は少々飽きれた様子で、
赤い花に言いました。
「けれども、このままじゃ
僕らの飲む分がなくなってしまうよ。」
「そんなことないよ。」
赤い花は気にも止めずに、
ひたすら水を飲み続けました。
青い花は一度ふぅ。と溜め息をついて
隣に咲いている黄色い花に
助けを求めました。
黄色い花は言います。
「赤い花君、この土地の水は無限じゃないから、
いずれなくなってしまうよ。今はいいけれど、
いずれ一人になった時、どうするの?」
それでも赤い花は聞き入れようとは
しませんでした。
「大丈夫だよ。」と、赤い花は言います。
「何とかなるから。」
それから二本は何も言えなくなって
しまいました。

二本の花は赤い花が眠っている間、
今後のことについて話し合っていました。
「このままじゃ、皆枯れてしまうよ。」
青い花は言いました。
「そうだね。」と、黄色の花が言いました。
「水を飲まないのも悪いけれど、
飲み過ぎても、いずれは枯れてしまう。」
そうして二本は、赤い花が来た時のことを
思い返し始めました。
それはある晴れた日の出来事でした。
いつもなら人通りのない広大な大地に、
一台の車が走っていました。
その車の持ち主は、二本が並んで
咲いているのを見つけると、
いたく感動した様子で二本の傍まで
駆けつけました。
そうして二本の傍で車を停めると、
「ちょうどいいから、ここに植えよう。」
そう言って、車の中から赤い花の
植えられた鉢を取り出したのです。
それから、ちょうど二本と並ぶように
小さな穴を掘ったあと、
適当に赤い花を植えなおすと、
すぐにその場を立ち去っていきました。
あとで赤い花に聞いたところによると、
「彼は相当な変わり者で、
貰いものだった自分をどう扱っていいか
分からず、置き場所を探していた。」
そうです。
それから、今に至るまで、
赤い花の喉の渇きに悩まされる日々が
続いています。
「彼の気持ちも分かるけれど・・」
と、青い花は言いました。
「どうやったら、あの喉の渇きを
止めることができるのだろう?」
黄色い花は困ったような顔をして、
こう答えました。
「やっぱり、本人が変わるのを待つしか、
ないのかもしれないね。」

それから数日が経った頃から、
二本の花の身に変化が現れ始めました。
その間も、赤い花に対する説得は
続いていたのですが、
全く変化する素振りは見せず、
むしろ二本が抑えようとすればするほど
赤い花の喉の渇きは増す一方でした。
赤い花は言いました。
「僕は何も悪くない!」
青と黄色の花びらはみるみるうちに
健康な色を無くしていき、
茎は生気をなくしたように
萎れていきました。
赤い花はわけも分からず、
ただおろおろとするばかりでした。
しまいには泣き出して、
「どうして思い通りにいかないんだ!」
と喚き散らす始末でした。
そうこうするうち、
赤い花の体調も悪くなり出して、
ぐったりすることが多くなってきました。
青い花は、最後の力を振り絞って
赤い花に言いました。
「いいかい、このままじゃ皆枯れてしまうよ。
次に雨が降ることがあったら、
必ず皆に分け与えるんだ。」
赤い花は力なく「うん。」と呟き、
小さく頷きました。

空は全てを見ていたのでしょうか?
翌日には雨が降り注ぎ、それからは
数日置きに雨が降る生活が続きました。
赤い花は青い花に言われた通りに
皆に水を分け与え、
決して一人占めするようなことは
なくなりました。
ある日、黄色い花が気になって
赤い花に言いました。
「あれから、もう喉が渇くことは
なくなったのかい?」
赤い花が答えました。
「うん、不思議と。」
それからは、三本ともが仲良く、
平等に暮らすようになりました。

赤い花は思いました。
(僕は、二人が僕の分まで水を飲んで
しまうんじゃないかと、怖かったんだ。
本当に悪いことをしてしまった。)
それから、小さな声で
「ありがとう。」と、呟きました。